読み切り完結
わたしたちは男女の仲間だ。
これが女同士の同盟だったなら、永遠に繋がっていられた。
でも、わたしとあんたではその同盟に入れない。高校三年生の夏だ。残り時間は少ない。男女の区別なく、やり合える心地よい関係とも仲間たちとも、お別れ。
その先のことなど分からない、あんたとも毎日会えなくなるかもしれない、なんて考えたくない。
あんたが女だったなら、この分かりにくい気持ちを見つめあうだけでも、きっと伝えることが出来た。
でも、あんたが女だったなら、ぬくもりを感じあうことも、かけがえのない心も知らずにいたね。
――乙女。
そんな風に呼ばれる年代は過ぎ去った。いんや、あと少しで完全に過ぎ去る。
校則違反をする必要のない洋服を毎日着ることが当たり前になる。チャイムが鳴った途端、お互いに競い合って屋上まで制服で走り抜け、みんなと笑いあった日々を懐かしむようになる。それとともに今を忘れ去っても行くのだろう。
だけれど、乙女で居続けることを目指すのは自由かな。だって、あんたは「ガキだね」と言って、屋上の太陽より眩しい顔をして、わたしに笑う。
あんたのほうがガキじゃないか、と言って笑い返せる今の関係が何より心地いい。
もう少しだけ純情ぶっていようか。休み時間になれば、あんたは誰よりも早く廊下に出て、先頭を走り抜ける。その焼けた背中を必死に追いかけ、屋上まで一緒に階段を駆け上がって来た。青空への扉を開ける前に笑って振り向かれる瞬間、どうしようもない気持ちになる。触りたくて、触ってきて欲しくて。カップルになった他の仲間のように、進みたくて、進めなくて、進みたくなくて。あと少しだけ、もう少しだけ、このままでいたくて。
このままでいいわけもないのに。今のままのわたしたちでいさせて欲しくて。すべてが矛盾をして、これが女同士の関係だったなら、どんなにいいかなんて、乙女っぽく願っている。あんたと一緒なら、ごまかすしかないままの笑顔で残りの夏の間だけいてやるか。
「ガキだね」
「あんたが走ってばかりなのでしょう!」
「違うよ。お前が大人じゃないから、我慢できないのだろ」
「なに分かったようなことを言っているのよ」
どうしようもないような言い合いをして。同士らしく、軽やかに笑っておいてやるか。
この屋上の青空の季節が過ぎたなら、「ガキだね」と言い合いつつ、固いコンクリートの上でも気にせず、抱きしめあって笑い転げる二人になってやる。
あんたはせいぜいガキのまま笑っておけ。